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高知地方裁判所 昭和56年(行ク)1号 決定 1981年2月05日

申立人 オノトレ縫製株式会社

被申立人 高知県地方労働委員会

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

一  申立の趣旨及び理由

申立人は、「被申立人が申立人に対し、高知地労委昭和五四年(不)第二号不当労働行為救済命令申立事件につき、昭和五五年一一月八日付でなした別紙記載の趣旨の命令(以下本件命令という。)の執行は、申立人を原告とし、被申立人を被告とする当庁昭和五五年(行ウ)第六号不当労働行為救済命令取消請求事件の本案判決が確定するまで、これを停止する。」との裁判を求め、そして、必ずしも明確ではないが、その理由として主張するところの要旨は、本件命令の前段は申立人が雇傭していた全日本自由労働組合高知県支部永野縫製分会員(二四名、以下組合員という。)の原職相当職への復帰を命じているが、組合員が勤務していたいわゆる永野工場は、同和対策事業特別措置法に則り、佐川町条例に基づいて佐川町長が運営、管理する町立作業所であり、申立人は、佐川町における同和対策事業に協力すべく、右工場を借り受け、組合員を使用して縫製事業を営んでいたものであつて、組合員は同和対策事業としての職に従事していたものというべきところ、永野工場では当初から赤字経営が続き、一民間業者としては到底事業を継続していくことが不可能となつたため、かねてより申立人が佐川町に要請し続けた結果、昭和五四年四月九日に至つてようやく、佐川町が永野工場の返還を受け容れることとなり、同工場使用契約は合意解除されたものであるから、組合員の復帰すべき、同和対策事業としての職はすでに消滅しているものというべきであり、したがつて本件命令の前段は、実行不可能な事柄を内容とするものであるから、その効力がこのまま継続するならば、申立人は、本案判決の確定に至るまで、本件命令の後段に従つて組合員に対し給料相当額を支払わねばならず、その結果、著しい損害を被ることとなり、組合員が前記佐川町条例等に基づき低所得者層から雇傭されたという事情に照らすと、右損害の回復は困難というべく、かつ被申立人の申立に基づいて当裁判所により緊急命令が発せられた現在、右損害を避けるため緊急の必要がある、というにある。

二  当裁判所の判断

本件命令の前段は、組合員の、原職それ自体への復帰を命じているものではなく、原職に相当する職種への復帰を命じているものにすぎないことは本件命令書の記載から明らかであるところ、本件疎明資料によれば、組合員は、同和対策事業の一環として、佐川町長が運営、管理する佐川町永野工場に勤務していたものではあるが、佐川町との間に雇傭関係が存したものではなく、あくまでも申立人に雇傭されていたものであること、申立人は、昭和五四年四月九日、佐川町との間で永野工場使用契約の合意解除をなし、同工場を閉鎖したうえこれを佐川町に返還しているけれども、従前より永野工場のほかに富士見(センターを含む。)、尾川の両工場を有しており、永野工場の閉鎖後も右両工場においては営業が継続されていること、右両工場においては、最盛時、富士見につき四〇名(六名)、尾川につき四七名(五名)の従業員を就労させ、永野工場閉鎖時においても、富士見につき三三名(五名)、尾川につき三九名(五名)の従業員を就労させていたこと(( )内はパート・アルバイト人員を示す。)などが認められ、以上によれば、組合員は、佐川町主体の同和対策事業としての職に従事していたものではなく、使用者たる申立人による職場配置の結果として、永野工場で就労していたとみるのが相当であるから、永野工場が佐川町に返還されて、すでに組合員の原職は消失しているとしても、申立人が有する他の二工場へ組合員を復帰させ、相当職に就労させるならば、本件命令の前段は遵守されたこととなり、かつ他工場の就労状況をみる限りそれに関して何らの障害もなく、結局本件命令の前段を実行することは可能というべきである。

そうすると、本件申立はその前提を欠き、その余の点について判断するまでもなく、理由なきに帰する(なお、仮に申立人の主張どおり組合員が低所得者であつて損害の回収が事実上容易でないにしても、これをもつて直ちに「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要がある」ということはできず、他に右のような緊急の必要性を認むべき資料はない。)。

よつて、本件申立を却下すべく、申立費用につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 鴨井孝之 西村則夫 坂井満)

別紙

申立人は、申立外全日本自由労働組合高知県支部永野縫製分会員を原職相当職に復帰させ、かつ解雇日の翌日から原職相当職に復帰するまでの間に同人らが受けるはずであつた賃金相当額を支払わなければならない。

執行停止申立書

申請の趣旨

被申請人が、申請人に対し、高知地労委昭和五四年(不)第二号不当労働行為救済申立事件について、昭和五五年一一月八日付(命令書交付同月一〇日午後四時)でなした不当労働行為救済命令は申請人を原告とし、被申請人を被告とする当庁昭和五五年(行ウ)第六号事件の判決が確定にいたるまでこれを停止する。

との裁判を求める。

申請の理由

一 被申請人は、申立人申請外全日本自由労働組合高知県支部、被申立人本件申請人間の高労委昭和五四年(不)第二号不当労働行為救済申立事件について、昭和五五年一一月一〇日交付の命令書をもつて、左記主文の命令をなした。

主文

1 被申立人オノトレ縫製株式会社は、申立人全日本自由労働組合高知県支部永野縫製会員を原職相当職に復帰させ、かつ解雇日の翌日から原職相当職に復帰するまでの間に同人らが受けるはずであつた賃金相当額を支払わねばならない。

2 申立人のその余の請求は棄却する。

二 被申請人の右命令に対し、申請人は右命令取消を求めて労組法第二七条第六項の規定にもとづき、同年一二月二日御庁に対して取消訴訟を提起した(御庁昭和五五年(行ウ)第六号)。

三 本件命令の違法性

被申請人の命令の内容は別紙(一)の命令書理由記載のとおりであり、これに対する申請人の主張は別紙(二)訴状請求原因のとおりである(なお請求原因事実中、原告とあるを申請人、被告とあるを被申請人と読みかえられたい)。

申請人は右主張にあえて付加する要をみないが、証拠との関連において、より具体的に、本件命令の違法性及び理由のないことを明確にする。

1 申請外組合の申立が不明であることは別紙命令書を一読すれば明白である。即ち、「第2、判断及び法律上の根拠」に「1、被申立人の主張」の記載はあるが、「申立人の主張」の記載はない。

従つて、本件命令は申請人の如何なる行為がいかなる不当労働行為を構成するものであるかの主張について判断したものか全く理解しがたい。

このことは命令書7頁「2判断(1)被申立人主張(1)について」において「使用者に労働組合法第7条各号に掲げる行為があれば、不当労働行為が成立するものと言わざるを得ない」との当然の一般論を展開しているが、右の立論は申請人のいかなる行為が、前記法条の各号に該当するというのか不明であり、結局判断なきに帰する。

同書8頁に「以上を考え合わせると、労働組合が組織されている永野工場のみを閉鎖し、…………これが壊滅を意図した労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為であると断ぜざるを得ない」と判断しているところからすれば、結局被申請人の行為は、7条1号違反であるというにあり、前記7条各号云々は全く無意味であることを自認しているといわざるをえない。

2 右はともかくとして、申請人の解雇と永野工場使用契約合意解除が、労働者の正当な組合活動に対する使用者の抑圧、阻害行為を目的とした偽装的閉鎖とするならば、全く偏見にみちた事実認定という他はない。

以下それらの事実を明白にする。

3 疎(以下疎を略す)甲一号証の一(調査報告書)ないし四

右は命令書にも記載されている申請外株式会社小野トレーデイング商会が、昭和四八年一二月ついに負債総額三億六千万余で倒産し、大阪地裁に対する会社整理申立事件によつて、裁判所の選任した検査役の調査報告(商法第三八八条一項)であるが、右調査結果でも永野工場は全期(四六年三月期以降四九年三月期迄)に合計五、四〇九、〇〇〇円の赤字を計上している。

4 甲二号証ないし甲四号証

永野工場は、佐川町立大型作業所として発足し、運営管理主体は町長(甲二の第三条)であり、就労者は「同和地区に居住する低所得者」に限定(同第四条)され、従業員の採用、解雇は佐川町長と協議して始めて可能であつた(甲四の第五条)。

これらは、従業員の採用、解雇が私的企業と本質的に異ることを意味し、私的企業者の恣意的解雇が許されないことを意味していることは明白である。

5 甲五号証(魚井取締役四四年一〇月一五日付報告書)

右の様な特殊な採用条件から、開所一年にして、永野作業所が私的企業として存続するには諸経費を考慮して一二、七七二、二九九円の実収入を計上する必要があるにもかかわらず、わずか三、三七八、八九〇円しか収入を得ることが出来ず、総給料四、二五七、四三三円にも満たず、まさに福祉事業所的性格が明らかである。

6 甲六、七号証(条例及び施行規則)

同和対策事業特別措置法により、昭和四六年一月五日以降永野作業所は正式名称が「佐川町立同和縫製関係等共同作業所」と改訂されたが、その運営管理権者に変更はなく、就労者の雇傭、解雇に対する企業者の独自的運営は否定されていたことも同様である(甲七の第一〇条、第一三条)。

従つて、永野作業所の従業員の解雇、利用廃止は、私企業独自の判断でなしうるものではなく、公共団体の同意が必須条件となつていたものである。

7 甲八号証ないし甲一〇号証

佐川町長はあくまでも規則の趣旨にそうことを要求し、採用、解雇、就業規則及び給与規定の変更廃止等はすべて佐川町長との協議が必要とされ、被申請人が命令書において「条例制定から後記永野工場閉鎖に至るまで、発足当初を除き、従業員の採用、解雇などの決定については格別町長がこれに関与したことはない」との事実認定をしているのは、右公文書に記録された事実と相反する事実を認定するもので、独断のそしりをまぬがれないであろう(なお具体的には後述参照)。

8 甲一一号証の一ないし三、甲一二号証の一、二、甲一三号証ないし甲二一号証

(1) 右の文書をみれば、申請人の前身である商会以降、労働組合に対して嫌悪した事実もなければ、組合員の資質向上に努力した事実(甲一一号証の三)が謙虚に読みとれるはずである。さらに町が賃金協定等にも関与し、決して、私企業としての労働関係に非ざる事実が判明するはずである(甲一二号証の二、甲一四、一六、一七、一八号証における町吏員及び町長の署名)。

(2) 組合への加入脱退は各人の自由意思にもとずくもので、右加入脱退を抑圧、阻害した事実もない(甲一二号証の一、甲一七、一八、一九、二〇号証)。

(3) 換言すれば、実に昭和四四年以降労働組合は存在してきているにかかわらず、従前も労働組合が存在していた事実を秘匿して、昭和五三年一二月組合が始めて結成されたと主張してきて申請外申立人組合が、本件申請人から証拠を提出するや、「申請人は脱退者を富士見工場に就労させた」、「高知一般から抗議を受けた」等の事実と相違する主張を強弁するに至つたものである。

前記各甲号証による申請人会社の前身たる商会と従業員が加入した組合との間に作成された文書の経過を見るならば、申請人及びその前身商会が、組合なるが故に差別したこともなければ、組合の存在を嫌つた事実のないことは余りにも明白である(その他の組合との多数の文書が存在するが、多数につき一部のみを証拠とした)。

労働組合名称が、「高知一般労働組合」であれ、「建設一般全日自労永野縫製分会」「建設一般・全日自労高知県支部」(甲三号証)、「全日自労高知県支部」(甲三三号証)、「全日本自由労働組合高知県支部」(甲三六号証、甲二九号証、命令書)のいずれであるにしろ、申請人らにとつては、永野作業所を返還せざるを得なかつた理由は全く別個の問題で、なんらの因果関係はない。

9 甲二二、二三号証(和議開始申立書、同決定)

本件命令書は「四九年八月には和議開始の申立を行い、同年一一月和議が成立し、五二年三月をもつて和議による負債を完済した」と事実を認定する。

然しながら、和議開始申立は四九年八月であつても(甲二二号証)、開始決定は四九年一一月八日、債権者集会の期日が同年一二月一七日午後一時であり、和議の発効は和議の認可決定の確定によりその効力を生ずる(和議法第五四条)ものであるところ、前記「同年一一月和議成立の事実」はありえない(甲二三号証)し、和議認可決定の確定は昭和五〇年一月一〇日である(甲二五号証一丁裏参照)。

しかも、重要なことは、和議債権元本額三億六、四八〇万円を二年余にわたつて三五%(一億二、七六八万円)を支払い、残余の元本(二億三、七一二万円)はもちろん、利息、損害金はすべて債務者商会に対する債権者に対してのみ免除された事実である(甲二二、二三号証)。

右の二億三、七〇〇万余円の残元金、利息、損害金が和議債務者にとつて免除された事実を、「和議による負債を完済した」と単純に「完済」として評価することは、商取引における企業信用の実体について重大な誤りを犯すばかりでなく、和議法第五七条で準用される破産法第三二六条第二項により、債務の弁済消滅ないしは民法上の債務免除とは自ら異なる事実を無視することになる(民法第四四八条、同法四三七条参照)。

従つて、和議債務者たる商会の権利義務を承継した申請人会社は、その設立当初から商取引の範囲において、厳しい経済条件を課せられているもので、赤字の増加はたちまちにして倒産を意味するし、いわゆる債務を単純に完済した会社とその設立基盤を異にする事実を看過することは許されるものではない。

10 甲二四号証の一、二及び甲二五号証(共同作業場=いわゆる永野工場=の利用廃止申入れと、これに対する佐川町の回答及び昭和五〇年一月一〇日付確認書)

右の経過を見れば、同和対策事業に協力する永野作業所の維持が私的企業の限界を超え、しかも、該作業場の低生産性が申請外商会の経営する尾川、富士見工場の存続をも危くしており、右商会はすでに大阪センター、堺工場をも閉鎖処分したもので(甲二四号証の一)、永野作業所の低生産性が問題であり、従業員が第一、第二組合に分裂組織されたことによる組合活動嫌悪とは全く無関係であることが明らかである。

佐川町長としての公文書(甲二四号証の二)は、「第一、第二組合の従業員=即ち永野作業所の全従業員=に利用廃止の申入れのあつたことを伝え、格別な対策を打出すこともなく、「今暫く御心棒を願う」との回答」をし、五〇年一月一〇日には、まさに条例、規則使用契約書(甲六号証ないし甲一〇号証)等にもとずく協議が行われ、命令書が「条例制定から後記永野工場閉鎖にいたるまで……格別町長がこれに関与した事実がない」との事実認定は、公文書による明白な記録すら否定するもので、重大な事実誤認であるばかりでなく、やむをえない永野作業所閉鎖を、全く独断的見解をもつて、組合組織嫌悪のための偽装閉鎖とみるものといわざるをえない。

即ち、前述したように、商会と労働組合との間の協定に町長又は町吏員が関与している事実、又、甲二五号証によれば、昭和五〇年一月一〇日町長を始めとする町首脳部及び同和対策事業の直接担当責任者と右商会との間で、申請外商会が「赤字要因である永野の共同作業場の運営(厳密に言えば利用であるが、その文言に重要な差異はない)を廃止して町に返還したい」旨の申出(甲二四号証の一)をさらに重ねて懇請し、協議した事実が明白である。しかも、町としては「既に生じている累積赤字三、〇〇〇万円も、これから発生するかしれない赤字の補償、補填は出来ない」「町は共同作業場利用の廃止の申入れは受理するが、同対審議会に諮り、従業員に廃止のやむなき事情を説明する」旨を回答し、さらに町長として「特に永野の従業員が一致団結し、生産向上に努力して経営の方途が立てば、会社は仕事の確保運営を再考する余地があるか否か」を質問し、会社として「赤字経営にならぬ方法対策がなされた上なら考慮する」旨を回答し、しかも、佐川町と会社間の使用契約書の規定に基いて行われた協議であることを確認している。

こうした事実を謙虚に直視するかぎり、「発足当初を除き従業員の採用、解雇などの決定については、格別町長がこれに関与したことがない」との命令書記載の事実認定がなされたことは、まことに理解しがたいものといわざるをえない。甲二五号証において、会社側が「利用廃止して町に返還したい」旨の申入れをしたのを受けて、町側が「共同作業場利用の廃止申入れを受理しないわけにはいかない。従業員に説明して共同作業場廃止のやむなき事情を納得させる」との回答は、まさに、共同作業所閉鎖による全従業員の解雇を包括した決定についての話合いであり、さらに、会社側は「労働組合に対して一ケ月前に予告して解雇するか、又は予告手当を支払つて工場閉鎖する予定と説明」している事実を見れば、町長が従業員の解雇などの決定に関与した事実を認めるに、これ以上の明白な証拠はないはずである。

11 甲二六号証(昭和五三年一二月一六日付回答書)

永野共同作業所の累積赤字が減額しない場合は、申請人会社としてはこれ以上、同和福祉対策事業の遂行が不可能であり、町との使用貸借契約を解除して、利用返還をする旨を文書をもつて、同所の従業員に告知した事実。

12 甲二七号証、甲二八号証の一、二

昭和五三年一二月二七日付生産協定書の「生産目標数字の達成が出来ず、累積欠損金が減額しない場合は、之が対策を検討する」は、甲二六号証の昭和五三年一二月一六日付回答書の含みのもとに合意された文書であり、すでに従前からの経過をふまえて、申請人会社として永野共同作業所の閉鎖を検討せざるを得ないことを明白にしたものである。

被申請人の命令書は「永野工場を閉鎖する」との文言が撤回されたと強調するのであるが、すでに詳述したように、十数年余に亘つて累積赤字が解消せず、しかも佐川町と申請人会社及びその前身商会は、共同作業所の利用廃止について、すでに合意をみているにかかわらず、佐川町は同和対策事業としての同作業所を受取るべき同対審への諮問同意を得ようとせず、申請人会社の一方的犠牲負担による共同作業所運営をそのままにしてきたものであるが、申請人会社は私的企業の経営限界に達しており、累積欠損金が減額しない場合はもはや永野共同作業所の利用廃止による工場閉鎖しかありえないことが前提であり、「之が対策を検討する」との文言に改められても、その実質に変化はない(甲二七号証)。

従つて、表現の変化が、経営実体の変化までを変更するものでなく、かえつて、すでに昭和五三年一二月一六日現在において、累積欠損金の減額しない場合、申請人会社は、昭和五四年三月以降永野共同作業所の利用廃止をする明確な意思表示を、その従業員に明示していた事実に意義があるというべきである。

然も、該意思表示は、右従業員のみならず、永野共同作業所の管理運営者たる佐川町長に対しても口頭で昭和五三年一二月になし、さらに文書で、昭和五四年三月二三日申入れをしたものである(甲二八号証の一)。

これに対し、佐川町は、「町といたしましても佐川町永野縫製工場は同和対策事業の一貫として実施してお」ることを明言しているところ(甲二八号証の二)、そもそも同和対策事業は同和対策事業特別措置法第二条によつて「同法第六条各号に掲げる事項を実施する事業をいう」と定義づけられ、その目標は、同法第五条の定めるところである。而して、同法の目的は「国及び地方公共団体が協力して行う……目標を達成するために必要な特別の措置を講ずることにより、対象地域における経済力の培養、住民の生活の安定及び福祉の向上等に寄与すること」であるところ(同法第一条)、これらの事業には当然の負担経費が予想され、同法第七条第一項は「同和対策事業でこれに要する経費について国が負担し、又は補助するものに対するその負担又は補助については、政令で特別の定めをする場合を除き、予算の範囲内で、三分の二の割合をもつて算定するものとする」と明記している。

さらに地方公共団体には同法第八条で「国の施策に準じて必要な措置を講ずるように努めなければならない」と義務ずけ、その資金的裏付けとして同法第九条第一項は「同和対策事業につき地方公共団体が必要とする経費については、地方財政法第五条第一項各号に規定する経費に該当しないものについても、地方債をもつてその財源とすることができる」と規定している。

換言すれば、「対象地域の住民の雇用の促進、及び職業の安定を図るため、職業指導及び職業訓練の充実、職業紹介の推進等の措置を講ずること」(同法第六条五号)は国の施策であり、地方公共団体が国の施策に準じて必要な措置を講ずべき義務を負担し、国民は同和対策事業の円滑な実施に協力するよう努力ずけられているに過ぎない(同法第二条)。

従つて、同和対策事業の一貫である永野共同作業所における従業員の雇用の促進、職業の安定を図るための負担経費は、一私人たる申請人会社がこれを負うべきいわれはなく、国又は地方公共団体がこれを負担すべきものである。この点において、申請人会社が経営する尾川、富士見工場の経費負担はもちろん、同工場の従業員との雇傭契約と、永野共同作業所に勤務する住民の雇用関係、あるいは職業の安定をはかるべき主体においても根本的に相違する。

こうした同和対策事業の本質を看過して、申請人会社の営利事業と、佐川町の実施する同和対策事業である「佐川町永野縫製工場」(甲二八号証の二)の運営とを混同する被申請人の命令書は、国法を無視した論点に立つもので到底許されるものではない。

私企業における労働者には団結権等の保障があることは当然であり、又、使用者が労組法第七条各号違反の行為があれば不当労働行為が成立することも論をまたない。

然るに本件は、申請人会社が労働者の団結権を侵害した事実もなければ、訴外組合が主張するような組合結成とは全くなんの因果関係もない永野共同作業所の利用廃止による閉鎖である。

すでに甲二五号証でみたように、佐川町は永野共同作業所の運営は、対象地域住民の雇傭促進あるいは職業安定をはかる同和対策事業であることを認め、かつ、右事業遂行に昭和五〇年一月一〇日当時すでに累積赤字約三〇〇〇万円を計上しているにかかわらず、一私企業の負担のままとして、前記同対法第七条、第九条等による経費負担を全く講じようとしないことが明白であるばかりでなく、昭和五二年四月一日成立した申請人会社は約二年後の五四年二月現在、さらに新に二四〇〇万円の累積赤字を計上(甲二八号証の一)し、もはや同和対策事業を地方公共団体にかわつて経費負担することは不可能であるし、何人からも法上義務のない経費負担を義務ずけられる理由は全く存しない。

被申請人の命令書が「永野工場の累積赤字の主たる原因は、同工場の低生産性によるものであつて、会社がその対応に苦慮していたことは認められるところである」と判断しながら、「永野工場使用料が免除されるなど、経費面において有利であつたことを考慮すれば、赤字克服のための会社の経営努力が十分でなかつたこと否定できない」と推論するに至つては論理の飛躍も甚だしいと言わざるを得ない。

なぜならば、工場使用料が免除である事実と、低生産性によるコスト高の比較なくして、単純に有利などと論ずるは企業の実体を全く知らないものの観念論にすぎないし、十数年余にわたる累積赤字増大を慢然と放置する経営者はどこにもいないし、赤字克服の会社努力が十分でなかつたなど余りにも無責任な発言という他はない。

如何様に努力しても、低生産性を向上せしめえない事実が存在するからこそ、同対法は第七条の特別助成を認め、第九条の地方債の発行(しかも地財法に該当しない場合においてすらも)を認めているのであり、第六条の特別規定が存在するのである。

さらにまた、被申請人の主張のごとく経営努力によつて赤字克服が困難でないとするならば、甲二五号証で佐川町が「共同利用廃止の申入れを受理する」と言明し、「同対審を開き、従業員に説明して納得させる」といいながら、「会社の申入の従業員の身分保障及び無条件引継の件は受入れられぬ」との矛盾した発言はなかつたであろうし、事実、以後佐川町が言を左右にしてようやく昭和五四年四月に至り、共同作業所返還をやむなく承諾した事実よりも早く共同作業所返還は実現していたであろう。

13 甲二九号証(昭和五四年四月二日付文書)

被申請人は、「会社から昭和五四年三月二三日付で、町当局あて作業場の利用廃止に関しての申入れがなされ、これに対して町から同年三月三〇日付回答(甲二八号証の二)が示されてはいるものの、町と会社との契約上に規定されている事項が全て完了しているものとは認められないので、次のとおり勧告する。

なお、当あつせん委員会はこの経過を見守ることとする。」との見解を発表している。

14 甲三〇号証(54、4、9付佐川町長回答)

(1) 佐川町は二回にわたる同和対策審議会の審議を経たうえその答申を得て、佐川町立同和縫製関係共同作業場の利用廃止申入れに対し、「ここに正式に同場を町が引取る」旨の文書による回答のあつた事実。

(2) 甲二九号証にいう「町と会社との契約上に規定されている事項が全て完了」した事実。

(3) 「昭和四三年一〇月誘致工場として今日まで種々の問題を克服し、困難に打ちかつて多額の損失にもかかわらず、今日まで経営を維持されたことに対して町長として深く感謝申上げます」との佐川町を代表する町長の謝辞は、永野共同作業場に対し、申請人会社及び申請外商会が昭和四三年一〇月以降一私企業としてなしうる最善の努力の傾注を佐川町という地方公共団体が評価した結果である事実。

(4) 甲二四号証の一、二及び甲二五号証による経過にたつて、本書証による回答書を一読すれば、

(イ) 申請人会社が私企業の限界を超えた努力を傾注してきた事実。

(ロ) 労働組合が結成された、あるいは組合組織抑圧のための偽装的閉鎖とは全くなんの因果関係もない事実。

が明白である。

なぜならば、申請人会社(申請外商会時代も含む)が、佐川町立永野共同作業場に対し、同和対策事業特別措置法第七条、第九条等に規定の特別助成、援助を受けることができないまま(甲二五号証三項参照)、同法第四条、第八条による地方公共団体にかわつて、同法第六条第五号の事業を、長年努力してきたことが、評価され、前記文言の謝辞となつているからである。

「工場使用料免除など経営面で有利であつた事実」(命令書7頁)は、低生産性による赤字累積にはさしたる意味もなく、会社の経営努力不十分による赤字累積であるならば、佐川町が、長年にわたり再三利用廃止を申入れてきた申請人会社に「暫く心棒せよ」といわなくても、被申請人のいう有利性に魅力をもつ企業誘致が容易であつたはずである。

要するに、国の特別助成、地方公共団体の地方債による財源支出等を法上も当然に予定している「同和対策事業」(第二条、第六条第五号)の維持遂行について、福祉事業と企業の営利事業との本質的差異を知らないものにして、始めて「経済努力不十分」の抽象的評価をなすものだといわざるをえない。

(5) 被申請人はさらに「生産性でみると、富士見工場との比較では永野工場が特に劣つているとはいえず、他工場にも赤字が生じていたことからすると、永野工場のみを閉鎖したことは合理性が乏しく」と非難する。

これ又、前述の福祉事業と私的会社の企業との本質的差異を全く無視した独断的発想という他はない。私的企業の他工場の赤字克服はまさに企業経営者の経営努力の問題であるのに対し、同和対策事業の福祉事業の運営主体は地方公共団体がなすべきものである(その故をもつて甲二八号証の二の「佐川町永野縫製工場は同和対策事業の一貫として実施」との文言がある)。

富士見工場に赤字が出た事実のあることは否定しない。しかし、ほぼ同一品種を生産させた場合その生産性においては比較にならない。甲三九号証を見れば、略同一品種におけるダウンベスト(N3とN4の記号で表示されるもの)生産において、永野作業所の一人当り出来高は四・六七二枚であるのに対し、富士見工場のそれは八・三一九枚であり、単位生産量において問題にならない事実が判明する。さらに又、前出の甲一号証の四における富士見工場(高知センターとは同一場所、同一工場に存在するが経営分析の都合上、別々に計上してあるので富士見工場として両者を合計)の人件費と、永野作業場のそれとを比較すればほぼ同じであるところ、差引利益において、永野作業所は一度も黒字計上をした事実がないにかかわらず、富士見工場のそれは全く異る事も明らかである。

累積赤字の増加を座してまつ経営者は、おそらくどこにも居ないであろうし、赤字が計上された場合その原因分析は経営者としての至上命令であり、その原因除去への努力は、経営者がまさに心血を注ぐところである。

他工場の赤字は、黒字への転換可能性を有するが、永野共同作業所のそれは、いかなる企業努力をつくしても不可能であり、本質的な福祉事業へ還元した事実こそ、まさに企業の合理性であり、累積赤字防止のためやむを得ない処理であつたといわざるを得ない。

いかように赤字が累積するとも閉鎖することなく、福祉事業を継続せよというのは、企業経営における経営学、経済学の初歩的原則論を無視しない限り成りたつ論理ではないし、前記客観的数値を比較して、なお「特に劣つているとは言えない」「他工場においても赤字が生じていたことからすると」等の評価をする限り、私的企業の存続は不可能である。

永野共同作業所の開所後一年にして「生産性に見合わない賃金の支払いは又会社の存立を危くするのも事実であります。従つて吾々としては現在以上の賃金の支払いは今後期待される生産性の向上を考慮した上でなければ自滅の道を歩む」(甲五号証)旨を当時の魚井工場長が指摘した事実が、甲二二、二三号証への和議開始決定の一因となつた事実をふまえ、一方、昭和四九年一二月一〇日付の甲二四号証の一による共同作業所利用廃止申入れ以来、申請人会社が継続して利用廃止を主張し、ここにようやく永野共同作業所の利用廃止(閉鎖)への合意成立を証明した甲三〇号証の文書である事実をみれば、「困難に打ちかつて、多額の損失にもかかわらず、今日まで経営を維持されたことに対して町長として深く感謝申上げる」の言葉は、申請人会社(申請外商会を含む)に対する地域地方公共団体の長として、利用廃止(閉鎖)もまことに止むをえないものがあるとの評価を与えたものであり、「会社が永野工場のみを閉鎖したことは、合理性が乏しく」などの評価をするにいたつては、余りにも右経営に注いできた努力に対する実体を見ない判断と言わざるをえない。

15 甲三一号証ないし甲三六号証

(1) 被申請人は「年末一時金に対し、一律支給しようとしたが、これを不満として労働組合が結成された永野工場の従業員のみに、大幅な増額支給をせざるをえなかつたこと、…………以上を考え合わせると、労働組合が組織されている永野工場のみを閉鎖し、分会員全員を解雇した会社の行為は、組合の存在を嫌い、…………これが壊滅を意図した」と独断する。

しかしながら、甲一二号証の一ないし甲二〇号証によつても明白なように、申請人会社は申請外商会当初から、永野共同作業所の従業員において組織された労働組合の存在を認め、かつ数十回に亘る団体交渉あるいは賃金協定、夏季又は年末一時金支給に関する協定等を労働組合と締結した経験を有し、昭和五三年一二月「今度は建設一般全自労永野縫製分会に加入した」との通知を受けても、申請人会社としては従前の「高知一般労働組合から組織がえをした」との認識に過ぎないものであり、従前から加入していた労働組合に対するものと別異に考慮する要素は全く存在しなかつたものであるし、あえて名称や上部団体に変化があるとしても、労働組合の存在を嫌うべき理由もなければ、これが壊滅を意図した事実もない。

従前「高知一般労組」に加入当時においてすら、他工場の従業員とは採用条件及び地域が異なり、永野共同作業所は「同和地区住民の就労の場」(甲二号証第四条、甲六号証第二条、甲七号証第一〇条、第一二条、第一三条(1)号、甲一〇号証第三条参照)であることが限定され、利用者との雇傭関係はあつても作業場の就労者として就労者の任務(甲七号証第一二条)が義務ずけられており、利用者の作業場の運営についても町制定の条例施行規則(甲七号証)第一三条(とくに(6)、(7)号)で限定される等の条件が付されており、申請人会社の他工場のいわゆる従業員は、地域的限定もなければ、その採用に行政庁の干渉、制限条件を受けないものである。従つて就労者は勤労意欲が盛んである旨を表明する限り、その生産性の向上の有無、ないしは技術的取得を問題とすることは殆んど不可能に近いし、後者の従業員は、作業能力が直ちに自己の収入に直結することから、必然的に就労者と従業員では、労働意欲に相違があることは否定できないし、永野共同作業所就労者が加入した労働組合へ、他工場の従業員が加入するとは限らない。現在多種多様の労働組合が存在し、一会社の従業員がある労働組合に加入したからといつて、他会社の従業員が同一労組に加入するとは限らないことは日常経験する自明の理である。こうした現実を無視して、「組合の存在を嫌い、組合活動が他工場に波及するのを恐れ、これが壊滅を意図した」などとは、全く過去の申請人会社(申請外商会)の永野従業員による労働組合に対処してきた団体交渉等の経過をみない独断という他はない。

(2) 甲三一号証ないし甲三六号証の組合名称を見れば明白なように、永野工場の就労者らが加入している労働組合の正式名称を第三者が知ることは不可能であり、従前の「高知一般労組」との相違を知るよしもない。のみならず、その加入脱退は過去においても常時繰りかえしであり(甲一二号証の一、甲一九号証、甲二〇号証)、昭和五三年一二月、新名称の組合加入を通知してきたからといつて、申請人会社は従前となんら違つた対応策を必要とするものでもなければ、組合の存在を嫌うべき理由はありえない。

(3) 申請人は地労委において甲三六号証(申立書)の陳述を求め求釈明をせんとしたが、被申請人が拒否したことは別紙請求原因記載のとおりである(それ故命令書に「被申立人の主張」は記載されているが「申立人の主張」の記載がなく、労組法第二七条一項の「当該申立が理由があるかどうかについて」審問を行つたとはいいがたい違法がある)が、甲三一号証よりわずか一週間後に作成された甲三六号証において組合名が突如変更(なお甲二七号証の組合名称参照)されその同一性が疑わしいが、その点は問題外とする。

申請外組合は不当労働行為を構成する具体的事実としてその第1項、第2項に「昭和53(43は誤り)年12月13日永野工場の従業員二四名が全日自労高知県支部に加入、会社は永野工場に労働組合が組織された事を嫌悪し」と主張していること明白である。即ち、永野共同作業所で従前から組織加入していた労働組合の事実を秘し、「始めて労働組合が組織された事を嫌悪し」との主張こそ、申請外組合の主張である。

従つて、労働組合が始めて組織されたとの主張は事実を誤つて主張するものであり、従前から労働組合が存在していたこと及び、それらの労働組合とは団体交渉をしてきた事実もあり、労働組合を嫌悪すべき理由も事実もなかつたことを立証し、加入組合名称に変更があつた事実と、永野作業所の利用廃止とは全く因果関係のない事実を主張立証した。

しかも甲二九号証における被申請人の文言によれば、甲三〇号証による回答で、「町と会社との契約上に規定されている事項が全て完了した」事実が当然認定されるはずである。

そうだとするならば、甲六号証、甲七号証等の条例規則によつて定められた佐川町立同和縫製関係共同作業所の申請人の利用者としての地位は消滅し、同作業所において右利用関係を前提とする同和地区住民の就労の場とする就労契約も当然終了したものである。

右利用契約を終了するにあたつては、甲一〇号証の「使用契約書」第五条により、あらかじめ佐川町長との協議を義務ずけられており、右協議の結果にもとずく、「利用廃止」であることは甲三〇号証をみれば一目瞭然である。

従つて、命令書が主文第一項において、「原職相当職に復帰させ」と命じても、甲七号証による共同作業所の利用者たる地位を終了した申請人は、永野縫製分会員を「作業場の就労者」(第一〇条第一項、なお甲一〇号証第三条、第五条参照)であつた地位に復帰させるべきことは法上不可能であり、かかる不可能を命じた被申請人の命令は当然取消されるべきものといわねばならない。

16 甲三七号証、甲三八号証、甲四〇号証の一ないし二四

(1) 申請人会社は昭和五四年四月九日、佐川町から公文書による利用廃止申入承諾(甲三〇号証)を得て、同和対策事業の一貫としての佐川町永野縫製工場の利用廃止による事業閉鎖と、同作業場における就労者との雇用関係を終了する旨を各人に通知し、同日、同月分の給料及び労基法第二〇条第一項所定の三〇日分の解雇予告手当及び退職手当を支給した(甲三七号証。ただし、退職手当及び予告手当は受領拒否したので四月一〇日供託したところ、五名は受領し、一九名のみが受領未了)。

(2) 一方、労働者と事業主との雇用関係が終了した、いわゆる「離職」(雇用保険法第四条第二項参照)にともなう届出義務を監督官庁に対して履行した。

即ち、同法第七条、施行規則第七条所定の被保険者でなくなつたことの原因が「雇用関係終了」による離職である事実を証明して資格喪失届に雇用保険被保険者離職証明書を添えて届出をなし、公共職業安定所長は、被保険者でなくなつたことを確認した(甲四〇号証の一ないし二四。法第九条、規則第九条)。昭和五〇年三月末日限り廃止された失業保険法第三条では、「失業とは、被保険者が離職し云々」と定義づけるのみであつたが、雇用保険法では、第四条において、「離職とは被保険者について、事業主との雇用関係が終了することをいう」と明確に定義づけ、雇用関係終了について被保険者において異議のあるときは、同法第八条により、第九条の確認を請求できる旨が法定されている。

(3) 永野共同作業所の就労者らが、雇用関係は終了しておらず、「被保険者でなくなつたことの事実がない」旨を確認請求してその事実が認められたときは、公共職業安定所長は事業主たる申請人会社に対して、その旨の通知が義務ずけられているが、永野共同作業所の就労者から右の如き請求が出された事実もなく、かつ、申請人会社が公共職業安定所長からその旨の通知を受けた事実もない(規則第一一条)。

(4) 甲四〇号証の一ないし二四はその注意欄第4項に「事業主及び被保険者は、この処分に不服のあるときは、この処分のあつたことを知つた日の翌日から起算して六〇日以内に…………審査請求をすることができる」(労保審査会法第八条参照)旨を教示している。即ち、法第六九条第一項は、「第九条規定による確認、失業給付に関する処分………の規定による処分に不服のある者は、雇用保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服のある者は、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができる」として、雇用関係終了を前提に提出された「離職証明確認通知」のあつた日から六〇日以内に、雇用関係の終了していない旨の確認を求めることが出来るが、甲四〇号証の一ないし二四によれば、昭和五四年四月一三日須崎公共職業安定所長は、永野共同作業所の就労者は「低生産による赤字累積の為工場閉鎖」し、<3>号離職によつて申請人と雇用関係が終了した事実を確認通知している(確認通知印参照)。しかし、就労者から、右確認通知処分に対する不服審査請求がなされた事実はない。

換言すれば、永野共同作業所で同所の事業に従事していた就労者は全員が、雇用関係が終了した離職の事実を承認したものであるという他はなく「原職相当職に復帰」を命ずるは、法律に違反した事実を前提とした違法な命令という他はない。

(5) 永野共同作業所の就労者は、前述のように五四年四月一三日離職による確認を受けながら、その加入していると主張する労働組合は翌四月一四日申請人と就労者間には雇用関係存続ありとして不当労働行為救済申立をなしているが(甲三六号証)、一方、就労者ら全員は四月一六日に離職した旨を明らかにして、雇用保険法第一五条所定の「失業の認定」を受ける受給資格者として、公共職業安定所に出頭し、求職の申込みをしているものである(甲三八号証)。

既に述べたように国法である雇用保険法第四条第二項は「離職」を「被保険者と事業主との雇用関係終了」と明確に定義づけたうえで、同条第三項は「失業とは、被保険者が離職し、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態にあることをいう」と法定しているのであつて、右の事業主との雇用関係終了による離職と、労働意思能力があるにかかわらず就職できないこと及び「求職の申込み」が、失業認定の要件である(法第一五条第一、二項、規則第二二条)。

旧失業保険法は、被保険者が失業した場合、失業保険金を支給してその生活の安定を図ることを目的(同法第一条)としていたのに対し、雇用保険法は、失業した場合に必要な給付を行い労働者の生活の安定をはかるとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進し、あわせて雇用機会の増大、労働者の能力開発向上等を図ることを目的として、失業給付は、求職者給付及び就職促進給付に二大別され、従前の失業保険金支給とは比較にならない失業給付が法定される反面、離職者の労働の意思及び能力を有する者の雇用機会の増大、労働者の能力の開発等について極めて詳細な規定がされている。

してみれば、労働者が離職し、雇用保険法にもとずく求職の意思表示をした事実は、たんに旧法の失業保険金受給と性質を異にし、事業主との雇用関係終了を前提に、新な雇用機会を得る求職の意思表示があつたといわざるをえない。従つて、被申請人に対し、申立外労働組合名義をもつて不当労働行為救済命令申立をした直後である四月一六日、永野共同作業所の就労者が、法第一五条第二項の求職の申込みをした事実は、申請人と右就労者との間における雇用関係の終了を認めていたものであり、たんに旧来の失業保険金を受給するのとは本質的に相違する。

被申請人の命令書主文において、「解雇日の翌日から原職相当職に復帰するまでの間に同人らが受けるはずであつた賃金相当額を支払」えとの命令は、前述した原職相当職に復帰が不可能であることの矛盾は別としても、すでに雇用関係の終了を前提とした就労者の意思表示と矛盾する雇用保険法違反の内容を命ずるもので取消を免れがたい。

申請外労働組合の文書中には「組合員は雇用保険の仮給付も切れ」の文言があり、被申請人も右記載文書を緊急命令の疎明資料として提出しているが、雇用保険法に「雇用保険の仮給付」なる制度もなければ、雇用保険は、労働者が失業した場合に必要な給付を行うことと、求職活動を容易にする等の保険制度であり、「雇用保険給付」なる概念は存在しない。旧失業保険法に「失業保険金を支給」とあるのと、全く相違する内容の雇用保険法であるにかかわらず、「雇用保険給付」なる用語を使用した疎明資料が疎明資料たりうるか否かは、自明の理であろう。

要するに審問手続において、申請人が雇用保険被保険者離職証明書、求職年月日証明書等を提出したにかかわらず、労働者の雇用関係終了及び求職の意思表示をした事実ないしは、同事実の根拠法条たる国法の諸規定すら無視した前提のもとに、あえて「労働組合の存在を嫌い、これが壊滅を意図した」と断ずるに及んだのは、重大な事実誤認であり、取消を免れがたい。

17 甲三九号証、甲四一号証の一ないし六

(1) 甲三九号証はすでに前述した如く、ほぼ同一品種の生産性を永野工場と富士見工場で比較したもので、前者は後者のおよそ二分の一の生産性にすぎない事実。

(2) 甲四一号証の一ないし六は、昭和五三年一二月締結した協定書による生産目標達成率(収支が零)に対し、約半月毎にその目標達成率を計算し、就労者の生産性向上への意欲をうながし、指導に使用した当時の工場長作成メモ。

甲四一号証の一 五五、四%

同二      三八、四%

同三      六七、五%

同四      四〇〇〇番 四八、九%(四〇、七%)

四〇〇二番 七九、一%(六五、九%)

同六      七五、六%(六三%)

以上の諸書証を綜合すれば、永野共同作業所の低生産は余りにも歴然たる事実であり、同所の利用廃止が適法に行われ、閉鎖による解雇に違法はない。

申請人会社(申請外商会を含む)は佐川町に対し、甲七号証規則第一三条(6)号及び甲一〇号証第一〇条の趣旨にのつとり毎月分を報告し、右規則第一三条第(7)号による公認会計士の企業診断をうけ、あるいは甲一一号証の三において当時の労働組合及び佐川町等に対し、低生産性の実体を訴え、甲二四号証の二による町から「生産性の向上と自給、自足の運営で貴社には迷惑のかからないよう一段の努力をする」との確約を得ても、ただ町は「会社側にのみ負担をかけるのは申訳なく思つて居るが外に打つ妙手もなく困つておる」「補償、補填は不可能」(甲二五号証)というままに経過し、ついに甲二六号証の文書による「累積欠損金の減額しない場合は五四年二月二八日をもつて閉鎖する」意思表示をなし、そのことは町長に対しても意思表示をなし、以降三月余の経過を見るも低生産性についての向上はなく、甲二八号証の一の利用廃止申入れとなり、甲二八号証の二、甲三〇号証の回答で、ここにようやく利用廃止(作業所閉鎖)となつたもので、こうした事実の経過をみずして、従前から組合が存在したにかかわらず、いかにも五三年一二月に始めて組合結成かの如く主張した申請外組合の申立を一方的に鵜呑みするが如き審問手続を続行し、国法上の法定事項にすら相反する事実を前提にした被申請人の命令は違法無効であり取消を免れない。

四 執行停止の必要性

すでに詳述し、立証した如く違法無効な被申請人の命令は執行されるべき余地はない。

従つて、申請人は御庁に対し昭和五五年一二月二日不当労働行為救済命令取消請求訴訟を提起し、昭和五五年(行ウ)第六号事件として係属するに至り、御庁は第一回口頭弁論期日を本年一月一九日午前一〇時と指定された。

然るに、被申請人は、右訴状の請求原因に対する答弁書を提出することなく、年末に突如緊急命令申立をするに至つたが、すでに訴状が送達されているにかかわらず、右申立には、命令書が適法である旨の主張は全く含まれておらず、申請人が命令を無視するにあるというに過ぎない。

従つて、申請人は、右命令が実行不可能な内容であるにかかわらず、該命令の手続の続行をすれば、その生ずる回復の困難な損害が発生することは極めて明白であり、該損害を避けるため、緊急の必要があり、本案判決確定まで行政事件訴訟法第二五条により執行停止の決定を求める次第であります。

別紙一

命令書

(高知地労委 昭和五四年(不)第二号 昭和五五年一一月八日 命令)

申立人 全日本自由労働組合高知県支部

被申立人 オノトレ縫製株式会社

主文

一 被申立人オノトレ縫製株式会社は、申立人全日本自由労働組合高知県支部永野縫製分会員を原職相当職に復帰させ、かつ解雇日の翌日から原職相当職に復帰するまでの間に同人らが受けるはずであつた賃金相当額を支払わなければならない。

二 申立人のその余の請求は棄却する。

理由

第一認定した事実

1 当事者等

(1) 申立人全日本自由労働組合高知県支部(以下「支部」という。)は、全国組織である全日本自由労働組合の下部組織で、高知県下における日雇労働者を中心に、申立時現在二、四四〇名をもつて組織する合同労組である。

永野縫製分会(以下「分会」という。)は、支部の下部組織で、昭和五三年一二月一三日(以下「昭和」を省略する。)に被申立人会社の永野工場に就労する従業員で結成され、申立時現在、分会員は二四名である。

(2) 被申立人オノトレ縫製株式会社(以下「会社」という。)は、五二年四月一日に資本金一、〇〇〇万円で設立され、肩書地に本社を置き、五四年三月現在、永野工場(従業員二四名)のほか、尾川工場(同四四名)、富士見工場(同二三名)及び高知センター(以下「センター」という。同一四名)の四作業場において縫製加工業を営んでいたものである。

2 永野工場の発足から被申立人会社設立に至るまでの経緯

(1) 申立外株式会社小野トレーデイング商会(以下「商会」という。)は、佐川町(以下「町」という。)の同和対策事業の一環として誘致をうけ、四三年一〇月二二日、永野地区にある町の施設を借り受け、これを永野工場として縫製加工業を開始した。その後、商会は、同町内において四三年一二月に尾川工場を、四四年一〇月にセンターを新設し、続いて四六年五月にセンターの二階を富士見工場とした。

(2) 永野工場発足後、町が同工場について条例及び規則を制定したので、四四年一月一〇日、商会はあらためて町と使用契約を締結した。同条例等及び使用契約条項によると、永野工場の施設管理は町長が行い、商会が同工場において使用する従業員の採用、解雇その他労働条件の決定については、町長と事前協議することが定められていた。その後、条例の改正はあつたが、使用条件については基本的に変更はない。しかし、条例制定から後記永野工場閉鎖に至るまで、発足当初を除き従業員の採用、解雇などの決定については、格別町長がこれに関与したことはない。

(3) その後、商会は経営不振に陥り、四八年一二月に会社整理の申立て、四九年八月には和議開始の申立てを行い、同年一一月和議が成立し、五二年三月をもつて和議による負債を完済した。

(4) 商会は、町に対し四九年三月以来、口頭または文書で累積赤字の増大、低生産性等を理由に、永野工場の利用廃止を申し入れ、同時に、赤字の補てん、従業員の雇用保障を要望してきたが、町の受け入れるところとならなかつた。

(5) 商会の経営者は、前記(3)の負債完済を契機として、五二年四月一日、被申立人会社を別に設立し、同会社が、商会の町内における資産及び従業員に対する権利義務をすべて承継した。

3 労働組合の結成状況

(1) 前記四作業場のうち、永野工場を除く三作業場については、作業場設置から現在に至るまで、労働組合が結成されたことはなく、労働組合に加入した従業員もいない。

(2) 永野工場においては、四四年一一月一七日、従業員二八名が高知一般労働組合(以下「高知一般」という。)に加入、高知一般永野分会を結成し、労働条件等について団体交渉を持つなどしていたが、四八年一一月、約半数の組合員が高知一般を脱退した。そこで、会社は、その脱退者を富士見工場に就労させたところ、高知一般から抗議を受け、やむなく一時自宅待機させ賃金を支給したことがある。しかし、町のあつせんもあり、五〇年初頭永野工場に復帰した。その後、高知一般永野分会は、五〇年一二月の年末一時金協定を最後に、分会員は二名となり、高知一般の指導もなくなつて自然消滅した。

(3) 五三年一二月、永野工場の従業員は、会社から示された年末一時金が金一封(一律二万円)であることを不満として支部に加入、分会を組織した。

4 永野工場閉鎖に至る経緯

(1) 支部は、五三年一二月一六日から会社と年末一時金の増額交渉を行つた。その結果、同月二七日、三七・五日分(平均約六万円)で交渉が妥結した。

この団体交渉において会社は、「五三年度年末一時金増額への回答」文書により、「永野工場の最低月生産高をきめたうえ、累積欠損金が減額しない場合は、会社は五四年二月二八日をもつて永野工場を閉鎖する。この場合従業員は何等の異議を申し述べないことを約束する。」旨の条件を示したが、支部は、同工場閉鎖については到底応じることができないとしてこれを拒否し、生産協定についての交渉は年が明けて行うことになつた。

(2) 五四年に入つて交渉した結果、会社と分会は、三月九日、生産協定書に調印したが、「永野工場を閉鎖する。」との文言は撤回され、「協定生産目標数字の達成ができず累積欠損金が減額しない場合は、当該品目生産終了後、双方協議の上之が対策を検討する。」ということになつた。

(3) 他方、会社は、永野工場の嘱託である尾崎近佐と班長である君子夫妻に対し、五三年一二月中旬ごろから翌五四年三月ごろまでの間再三にわたり、「永野工場を引き受けてやらないか。」と要請したが、同人らはこれを拒絶した。

(4) 五四年三月二三日、会社は分会委員長に対し、「永野工場の生産性は依然として低く、一月及び二月の生産高は生産協定書に定められた最低限月生産高を大きく下回るので、先に合意をみた契約により、三月末日をもつて永野工場を閉鎖する。」旨の文書告知をした。同時に町長に対しても永野工場の利用廃止を申し入れた。これに対し町長は、佐川町同和対策審議会の答申を得て、四月九日、会社に永野工場を引き取る旨の回答をした。

(5) 会社は、四月一〇日、退職金及び解雇予告手当を高知地方法務局須崎支局に供託し、また、従業員の離職票を各人に発送した。

5 生産性について

会社提出の書証をもとに計数すると、三工場の従業員一人当りの出来高等は次表のとおりである。

表1

項目

工場別

一人平均月生産高

一人当りの損益

五二年六月~五三年五月

五三年六月~五四年三月

五二年六月~五三年五月

五三年六月~五四年三月

永野

(円)

一三五、四八九

(九九、一九一)

(円)

一三二、九七一

(一一三、一八六)

(円)

△四、五二九

(△三、三一六)

(円)

△八、二三一

(△七、〇〇七)

富士見

一二二、八二七

(一〇九、六六七)

一一一、〇五七

(一〇七、八七一)

△二、九一六

(△二、六〇四)

△一二、三四九

(△一一、九九四)

尾川

一四二、九七八

(一二四、二七五)

一五五、五二一

(一三七、二〇五)

一、六〇六

(一、三九六)

九、〇九〇

(八、〇一九)

表2

項目

工場別

五四年一月~五四年二月

一人平均月生産高

一人当りの損益

永野

(円)

八一、七〇九

(八〇、一〇七)

(円)

二二、六〇一

(二二、一五七)

富士見

九二、四七八

(八四、四三六)

二五、一三〇

(二二、九四五)

尾川

一〇九、五五〇

(九八、二一七)

九、一〇三

(八、一六二)

注 ( )内はパート・アルバイトの人員を加えて計算したものである。

第二判断及び法律上の根拠

1 被申立人の主張

会社の主張は、要するに、

(1) 永野工場は、同和対策事業特別措置法の目的を実現するための「公の施設」であり、その設置、運営、管理及び廃止に関する権限は、会社に帰属しない。会社は、同工場の運営において、就労者の選定は町との協議を要するなど、許可条件を遵守しなければならず、この限りにおいて私企業としての独立性は否定されている。したがつて、労働組合法上の問題を生ずる余地はない。

また、福祉事業は、採算性を度外視して維持されるべきものであり、それは、本来、国または地方公共団体の責務であつて、私企業がこれに協力したからといつて、法上の責任転換が行われることはあり得ないし、慈善事業的負担を強いられるべき理由もなく、町の福祉行政へもどしたまでである。

(2) 永野工場の閉鎖及びこれに伴う同工場の従業員解雇の理由は、同工場の低生産性による累積赤字防止のためであつて、会社としてはやむを得ない措置であり、労働組合に対する嫌悪でも、偽装閉鎖によるものでもない。

ということのようである。

2 判断

(1) 被申立人主張(1)について

なるほど永野工場については、条例等による制約があり、私企業としての独立性に問題がないとは言えない。しかしながら、私企業における労働者には団結権等の保障があり、それは、私企業の独立性の有無によつて、何ら制約を受けるものではない。したがつて、使用者に労働組合法第七条各号に掲げる行為があれば、不当労働行為が成立するものと言わざるを得ない。

また、福祉事業は、本来、国または地方公共団体の責務であつて、これに協力する私企業が慈善事業的負担を強いられるべき理由がないことは、被申立人主張のとおりである。しかしながら、そのことは、協力私企業における労働者の団結権等の保障を否定する根拠とはならず、その私企業の不当労働行為責任が免責されることにはならない。

したがつて、被申立人のこの点に関する主張は、いずれも独自の見解であつて採用できない。

(2) 被申立人主張(2)について

永野工場の累積赤字の主たる原因は、同工場の低生産性によるものであつて、会社がその対応に苦慮していたことは認められるところである。しかし、他工場に比べ永野工場使用料が免除されているなど、経費面において有利であつたことを考慮すれば、赤字克服のための会社の経営努力が十分でなかつたことも否定できない。

また、生産性でみると、富士見工場との比較では、永野工場が特に劣つているとはいえず、他工場においても赤字が生じていたことからすると、会社が永野工場のみを閉鎖したことは、合理性が乏しく、累積赤字防止のためとする被申立人の主張は首肯できない。

会社は、年末一時金について、全工場の従業員に対し、一律支給をしようとしたが、これを不満として労働組合が結成された永野工場の従業員のみに、大幅な増額支給をせざるを得なかつたこと。五四年三月九日に調印された生産協定書において、「永野工場を閉鎖する。」との文言が撤回された経緯にもかかわらず、その調印前の一月及び二月の生産実績を理由として、同協定書に定められた事前協議のないまま、日浅くして同工場を閉鎖したこと。尾崎夫妻に対し、再三、下請化の要請をしたこと。古くは商会時代において、別組合とはいえ労働組合が存在し、抗議を受けるという経緯のあつたこと。

以上を考え合わせると、労働組合が組織されている永野工場のみを閉鎖し、分会員全員を解雇した会社の行為は、組合の存在を嫌い、また、組合活動が他工場に波及するのを恐れ、これが壊滅を意図した労働組合法第七条第一号に該当する不当労働行為であると断ぜざるを得ない。

3 申立人は本件の救済として、永野工場の再開、誠実な団体交渉及び謝罪文の掲示をも求めているが、本件申立て時、すでに会社と町との永野工場使用契約は合意解除されて、同工場の再開が直ちには困難であること団体交渉の要求が工場再開と分会員の原職復帰を求めていることから、本件申立てについては主文の救済をもつて足りるので、労働組合法第二七条及び労働委員会規則第四三条を適用して主文のとおり命令する。

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